竹博士と言われた上田弘一郎氏の著書「竹づくし文化考(1986発行)」には
九州から東北にかけて、縄文時代の35の遺跡から51の竹カゴ類が出土しており、
既にそのころタケノコは山菜として食料になっていた。という。
長い長い時間をかけて、この用途にするなら何年の、いつごろ伐られたどの種類の竹がいい。
人々が口から口へと伝えた経験値と、研究者が人生をかけて汗を流し地道にとり続けた
知見の光が、未来をしめす力となったら嬉しい
(Rさんの素朴な疑問)
① 口伝に”3を留め 4を去り 7を存ずるなかれ”とあるが、これが合致する用途は
茶道・華道・景観保全林…竹の汎用性からみると意外と範囲は限られている。
竹の生態に配慮した理にかなった言葉ではあるが
工芸職人は3年竹を好むと聞くし、孟宗竹の白竹は2~3年竹しか結果が出ない。
そもそも伐り子さんは2~3年の竹を伐った竹林は、3年ほどは伐竹をせず休ませると聞く。
これこそ、長い経験から編み出された伐り子の知恵ともいえるのではないか。
② もう一つの口伝に”番傘をさして歩けるくらいに伐りなさい”とある。
この方法で竹を伐ると地面に陽射しが良く届いて暖かくなり、タケノコは若干小さくなるものの
収量は上がる。つまりタケノコ農家の方々にはとても合致しているように思う。
一方、竹材生産林にとってはどうか。
第1に、竹は木と違い樹皮である竹皮が竹になる前に地面に落ちるため、
成長した竹は樹皮を持たない。そのため紫外線によって著しく日に焼ける。
第2に、良く陽が差すと稈を高く伸ばさなくても光合成ができるので早々と枝を茂らせて
枝下の竹材として使えるところは短くなる。そしてが節が高くなるとも言われている。
タケノコ生産林ではプラスに作用する太陽光が、竹材生産林では必ずしもそうとは限らない。
第3に、竹は木と違い生まれて2~3か月でサイズ生長を終え、その後はどれほど
間伐をしても残された竹は太らない。それどころか間伐をすればするほど
新たに生まれる竹は細くなる。小径竹を求めている伐り子さんが大々的に竹を伐ることは
あり得るが、少なくともRさんは17年間で間伐を意識してマタケ竹林に入ったことはほぼ無い。
③ 一般的に10月~11月が竹を伐る最適な伐期(モウソウチクは少し早い)とされており、
これについては研究者の伐採月ごとの虫の脱出孔の気の遠くなるような詳細なデータがあり、参考になる。
実は、よくそのデータを見ると7月~12月も多少上がるものの低位に収まっている。
もちろん10月~11月も低いもののゼロではない。
青竹のまま使用するならこの期間に伐ればよいなと思う。
ただ白竹にする場合、その後に続く工程を考えるとある種類の竹が
どう急いでも1次乾燥に時間がかかり、天日干しが梅雨の季節まで割り込んで
結局は蒸れて質を落とすことになるように感じている。
虫の付きにくさ、1次乾燥の期間、梅雨前に天日干しまで終えられること。
これらを踏まえるとベテランの伐り子さんの「お盆過ぎたら大丈夫や」
は格言かもしれない。